たわいのない会話だが、私よりも二十歳も若く見える女が少しも年下に感じられなかっ
た。最初の出会いから年上の女と接している様な安堵感があった。先程の「襲っても好い
わよ」と言った事が気になっていた。冗談だろうが、本気であってほしい願望も無くはな
かった。この女なら許してくれそうな気もする。先を急ぐ訳でもないので、「草引き、手
伝いましょうか?」と聞いてみた。「お願いできます?」意外と素直に応じてくれた。草
引きはバイトでよく頼まれていたので慣れている。
  出してくれた軍手をはいて二人で作業をした。草はよく伸びているが、梅雨時で土は軟
らかく簡単に引き抜く事が出来た。作業をしていると汗が噴き出てくる。女も額に汗を滲
ませている。Tシャツの胸元が汗で貼りついて乳首がよく分かる。ブラジャーを着けてい
ない様だ。目のやり場に困って、ひたすら地面に向かって草を引き続けた。女は黙って手
を動かしている。話しかける事が躊躇われた。女の側で黙々と作業しながら、昨年の肉の
加工工場でのバイトを思い出していた。

  深夜まで豚の頬肉を串に刺していく作業を黙々と続けていた。女性の多い職場で、男は
学生アルバイト数名と私以外は工場長のみであった。工場長はたまに顔を見せるだけで、
殆ど本社に居る様であった。
  女たちは作業をしながら話に余念がない。大人の男は私だけなのでよく話しかけられた。
今の様に二人だけの作業ではないが、独り身の私は女を意識していた。女たちも夫を亡く
した者や、離婚している者が多くいた。
次第に気心が知れてくると、女たちは明け透けにきわどい話をする様になった。学生たち
は深夜労働が出来ないので、八時になれば帰ってしまう。男では私だけ最後まで残ってい
た。学生が居なくなると女たちの猥談に付き合わされた。明け透けに話すのでいやらしさ
は少しもなかった。女手一つで生活を支えている逞しさのようなものが感じられた。
  「藤波さんは一人やけど、あっちの方はどないしてんの?」
 「はー・・・」
 「いっぺんしよーか?」と皆の前で言われて困った顔をすると、大笑いされた事もある。
もちろん冗談であるが、中には仕上げた串を冷凍庫へ運び込む時に、「帰りに駐車場で待
ってます」とメモを渡される事もあった。
  待っている女の車に乗り込むとそのままラブホテルへ直行する。お互いその場限りの快
楽を求めるだけである。翌日には知らぬ顔をして作業をしていた。何人もの女と関係を持
ったが、誰も見て見ぬふりをしていた。
亭主持ちの女にもよく誘われたが、独り身の女以上に激しく交わる事が多かった。
お互いに肉欲だけを求め、後に尾を引くようなことは無かった。
工場長の居る時は目線だけでその夜の相手が決まっていた。女たちの間にルールの様なも
のがあり、トラブル事は一度もなかった。  繁忙期が終わり私は解雇された。女たちとの
関係もそれで終わってしまった。

  岩下忍は若くて、今までに関係を持った女たちとはタイプが違うが、私は目が合った時
から運命的な出会いを感じていた。
  「何を考えていらしたの?」
  「いえ、別に」、心の中を見透かされた様な気がした。


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