スケイル物語 「吾輩は蛇である」
助居益太
吾輩は蛇である。名前は「シロー」漢字では「白王」と書く。生まれは北米、ナミヘビ科 のブラックラットスネークである。ナミヘビ科でも並の蛇ではない。リューシスティックと いう純白の美しい身体をしておる。 吾輩の飼い主は「カフェ スケイル」という爬虫類喫茶のマスターである。 ちなみに「スケイル」というのは「うろこ」の事である。  マスターは店を始めるまでは姫路の某百貨店に勤めていたが、五十歳で何を思ったか突然 退社してしまった。同じ会社に勤めている奥方が知ったのは退職願を出してしまった後であ った。聞くところによれば奥方はその時、髪を振り乱し、夜叉のような顔をして「何で相談 もせんと勝手にやめるねん」とマスターを責めたらしい。 退社理由は「元気な間に好きなことをしてみたい」という事であったらしいが、会社の噂 では、女との関係を清算するためとか、使い込んで退職金で穴埋めをするためとか、ホモ関 係の相手がやめてしまって、トイレで出来なくなってしまったからだとか、あまり芳しいも のではなかった。まー吾輩としてはどうでもよいことである。 安月給の割には遊び人で、趣味も多彩であった。クレー射撃、ハンティング、写真、登山、 バードウオッチング、木彫カスタムナイフ作り、マラソン、トライアスロンパラグライダーハングライダーオートバイ四輪駆動車 、不倫、不純異性交遊、援助交際、等々きりがない。 もっとも、凝り性の飽き性で、何一つ長続きしない。これを今まで奥方が支えてきたのだが、当の本人は至って脳天気で、金を使い果たしてしまった今でも、金銭感覚はゼロである。 退職金を全部つぎ込んで建てた喫茶店も、爬虫類を飼育展示しているので客が気持ち悪がって、さっぱり流行っていない。吾輩以外にイグアナ、オオトカゲ、陸亀沼亀、カエル、熱帯魚ミニブタうさぎ東天紅アヒル、カモ、ヌートリアスカンク、犬、銀ギツネ 等がいる。吾輩の同類の蛇だけでも、十七匹が蠢いているのである。まさに動物園状態であ る。 このような喫茶店のマスターと客の繰り広げる日常生活は吾輩から見れば滑稽であり、理 解しがたいものであるが、読者諸兄には興味を持たれる方もいるのではなかろうか。
以下はカフェスケイルの日常である。

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