開店準備は動物たちの散歩と餌やりから始まる。最初に雑種犬の「ハッチ」と「コタ」を
散歩に連れて行く。「ハッチ」は子犬の時に店の玄関へ迷い込んできたので、みなし児だか
ら「ハッチ」と名付けられた。「コタ」は小谷君という、マスターのバイク仲間の家で生ま
れたので「コタ」になった。散歩は店の近くの河原まで行って、リードを外して暫く遊ばせ
てやる。遊ぶと言っても、大小便が終わればすぐに帰ってくる。その間マスターは川面に向
かって放尿する。初夏の頃であれば雉の鳴き声など聞こえて、のんびりしたものである。犬
の散歩が終わると、豚の「八戒」を小屋から出して餌を与える。「八戒」が食べている間に、
うさぎの「ピーター」スカンクの「縞次郎」にも餌をやり、アヒルとカモを庭に出す。東天
紅の「トット」は放し飼いなので餌を用意するまでは木の上に留まっている。アヒルは「
フラック」、カモは「メグミ」と「マドカ」の二羽である。アヒル達は店の前を流れている
小川に入って側壁についているミミズや虫を食べながら水浴びをする。この頃に「八戒」が
餌を食べ終わる。
 マスターは「八戒」のの始末をする長い柄杓を持って散歩に連れて行く。「八戒」と歩
いているマスターは近辺では有名になっている。「八戒」はいつも決まったところで糞と
便をする。糞は乾燥したコロコロのものをする。それを柄杓で受けて川へ流すのである。
小便の方は一晩辛抱しているせいか、「ジョンジョロリン、ジョンジョロリン」と一分以上
もする。この小便がまた臭い。川の水を柄杓ですくって流すのであるが、つい先日マスター
は大失敗をしてしまった。
  糞を流した後、小便を流そうと水をすくって道に撒いたのであるが、後ろをよく確認しな
いまま勢いよく柄杓を振り回した。「ぎゃー」と悲鳴が上がった。振り返ってみると、そこ
にはずぶ濡れの近所に住んでいる老人が立っていた。しかも口からは飛び出しかけた入れ歯
が豚の糞をくわえていたのである。
  「あっ、おっちゃん、ごめん」とマスターが謝ると、老人は、手を顔の前でふって、好い
好いと言う合図をして、入れ歯をそのまま口に入れてしまった。もちろん、豚の糞も一緒に
である。
 歳をとると臭覚が麻痺するようである。口の中に入ってしまった糞がどうなったか、その

後のことは吾輩もマスターも知らない。

page3へ

TOP