マスターの女癖の悪さで、奥方とは喧嘩が絶えない。ヒステリー気味の(ヒステリーその
ものであるが)奥方が興奮すると、手当たり次第に物を投げ始める。それもマスターが大事
にしている物を投げるので、マスターはそれを受けるのに必死だ。茶碗などは壊さないよう
に受けては置き、受けては置きとジャグラーをやっているようだが、奥方も負けてはいない。
両手を使ってどんどん投げつける。右手で受け左手で受け、股ぐら、脇の下、口、顎、鼻の
穴まで使って受けていたが、マスター手作りのカスタムナイフを投げつけられた時に、おで
こで受けてしまった。おでこに突き刺さったナイフを見て、落ちて刃がこぼれなくて良かっ
たとほっとするマスターなのである。
  投げる物がなくなると、マスターの逆襲である。わが輩たち爬虫類をケースから取りだし
て奥方に投げつけるのである。爬虫類の嫌いな奥方は断末魔の悲鳴を上げて逃げまどうので
ある。二メートル近いイグアナは鋭い爪でひっかき、鞭のような尻尾でたたき回る。オオト
カゲは三段腹に噛みつき、吾輩は首に巻き付いて締め上げる。小型の蛇は鼻の穴に入って鼻
毛をくすぐる。陸亀たちは足の上に糞を落とす。カエルは小便をかける。
 髪はバサバサ、服はボロボロ、血だらけのゾンビのようになってしまった奥方を想像しな
がらマスターは爬虫類ケースの陰で、ただひたすら、奥方の興奮が収まるのを待つのである。
  これだけの修羅場を経験しているので、人生相談はマスターの得意分野だ。女性問題では、
特に苦労しているので、好いアドバイスが出来ると本人は思っているらしい。
 マスターの生活スタイルに憧れる男の客もいるが、男に対しては冷たいものである。
「他人を羨んでいる間は幸せになれん。人生は切り開いていくもんや」と簡単なものである。
一方、女性客には手を取るようにして相談にのる。どんなにつまらない悩み事でも真剣に聞
いてやるのである。主人とうまくいっていない女性の悩みなどは、目を輝かせて聞いている。
そういう女性には、下半身の世話までしてしまう事があるので、奥方が嫉妬をやくのである。
世間では「女房妬くほど亭主もてもせず」と言うが、マスターはよくもてるのである。いや、
自分で、もてると思っているのである。その自信が女性に対する積極的な行動になり。手当
たり次第に口説くので、百回に一回くらいは「性交」いや「成功」するのである。


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